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ハリウッド・アカウンティングと 大手スタジオの垂直統合光永眞久(Liner Grode Stein Yankelevitz Sunshine Regenstreif & Taylor LLP 米国弁護士)

 読者の方々の中にも、何らかの形でエンタテインメント業界に関わっている方が多いと思う。そして、エンタテインメントに関わる以上、その本場である米国ハリウッドで仕事をしてみたいと思っている方も数多くいらっしゃることだろう。これは、現在においてもハリウッドが世界を魅了する映画作品やエンタテインメントのコンテンツを生み出し続けていることから考えると、至極当然のことと思える。

 その一方で気をつけなければならないのは、ハリウッドは、マネー力学に支配された世界であるという点だ。つまり、映画やコンテンツの製作は多くの利益を生み出すためのビジネスの一部であり、その過程に携わる多くの人間もそういった力学を十分に理解した上で行動している。

 それゆえ、ハリウッドでの慣行・商習慣を認識、理解せずにこの世界に飛び込むことは非常に危険であり、言葉は悪いが、いわば「いい金づる」(もしくは使い勝手のいい才能)として利用されるだけになってしまう危険性がある。これは、読者が俳優としてハリウッドの作品に出演する場合や、映画のプロデューサーとしてハリウッドの作品の製作に関わる場合、または作家として自分の作品を映画などのコンテンツの素材としてハリウッドの会社にライセンスを与える場合などを問わず共通である。

 もちろん、筆者も読者を驚かすためにこのようなことを書いているわけではない。逆に、どのような仕組みで動いているかをしっかり理解できれば、複雑な根回しが必要な日本の世界よりも余程やりやすいのではないかとさえ思っている。そこで本稿においてはまず、①ハリウッドにおけるお金の流れを理解する上では欠かせない「ハリウッド・アカウンティング(Hollywood Accounting)」について説明を加える。その際、その是非が問題となった判例を手短に紹介した上で、ハリウッド・アカウンティングの詳細について具体例を挙げつつ説明していく。そして次に、②ハリウッドを牛耳る米国のスタジオ系列の会社がどのような形でビジネスを動かしているかについて説明する。昨今の米国のスタジオ系列の会社は、吸収合併を繰り返し、製作から配給まですべてのチャンネルを系列会社の支配下に置くことに成功している。このような状態が、交渉の相手側である読者のみなさんにどのような影響を与えるかについて説明していきたいと思う。ここでも、2010年の夏に判決が下された米国の裁判例を題材として具体的に説明していく。

 本稿を読むことによって、読者の方々が将来ハリウッドを相手に契約交渉をする際に、相手側がどのような点に重点を置いて交渉を行ってくるかを理解するとともに、こちらとしてはどのような点に注意しつつ交渉に臨めばよいかについて、理解を深めていただければ幸いである。

目次

1. はじめに
2. ハリウッド・アカウンティングの是非が初めて問われた判例
 2-1. Buchwald v. Paramount
 2-2. 裁判の争点と帰結
 2-3. ハリウッド・アカウンティングとは?
 2-4. ハリウッド・アカウンティングが問題となる場面
3. 垂直統合(Vertical Integration)の是非が問われた判例
 3-1. フィンシン・ルールの廃止から垂直統合へ
 3-2. Celador International, Ltd. et al. v. The Walt Disney Company, et al.
4. 参考資料リスト

基本情報

ページ数
35ページ
出版社
経済産業省
言語
日本語
発行年
2011年