今から2年前の2009年4月、劇場用長編映画『レイン・フォール/雨の牙』(以下、本件映画)が公開された。本件映画は、米国人作家バリー・アイスラーのベストセラー小説「雨の牙」を原作とし、オーストラリア人監督のマックス・マニックス脚本・監督、椎名桔平、長谷川京子、ゲイリー・オールドマン主演、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(以下、SPE)配給のサスペンス・アクション映画である。
本件映画製作費の資金調達に際して採用された資金調達スキーム(以下、本件スキーム)は、有限責任事業組合契約に関する法律(以下、LLP法)に基づく有限責任事業組合(以下、LLP)、プロジェクトファイナンスを利用した海外の銀行からの銀行ローン、日本映画初の完成保証およびE&O保険などを利用したスキームであった。本件スキームは、それらの仕組みを利用して、本件映画への投資家すなわちLLPの各組合員のリスクを、本件映画の総製作費の約50%に相当する各組合員の出資金に限定する点で、我が国の映画ファイナンスの新しい可能性を示すものであった。本件映画の公開からすでに2年が経過しているが、本件映画以降、本件スキームと同様または類似の方法によって映画製作資金を調達した例は今のところ見受けられない。これは、本件スキームによる資金調達直後にいわゆるリーマンショックが起こり、全世界的な金融危機に見舞われたことが一因と考えられるが、現時点において本件スキームをあらためて分析することは、我が国の将来の映画ファイナンスのあり方を模索する上で有益であると考える。
本稿は、本件映画製作の主体となったレイン・フォール有限責任事業組合(以下、レイン・フォールLLP)および同LLPから本件映画制作業務の委託を受け制作を担当したレイン・プロダクション合同会社(以下、レイン・プロダクションLLC)の弁護士として、本件スキームの構築、本件スキームに関わる各契約書のチェック、銀行提出用の意見書の作成およびE&O保険加入に必要な権利処理手続のチェックなどを担当した筆者が、本件スキームをひとつの実例として映画製作費の国際的な資金調達の方法について解説を試みるものである。
以下、本件スキームの全体像、本件スキームの特徴、本件スキームを構成する各要素および本件スキーム各手続の順序の順に解説する