プリプロダクションの段階以降においては、製作資金の確保ができるタイミングの前後にわたって、実にさまざまな契約を締結し、あるいはドキュメントの作成をすることが求められる。その一例を挙げれば、監督契約、俳優契約(あるいは当該監督および俳優の起用がコミットまたは予定されている旨を証する監督/俳優側からの書面)、映画製作契約、配給契約(プリセールの契約も含む)などがある。また、映画製作会社が外部のプロデューサーを起用する場合には、当該プロデューサーとのプロデューサー契約を締結することが必要である。そして、これらの契約やドキュメントの多くは、当該映画へのファイナンシアー(ローン提供者や出資者)から、当該映画にファイナンスを行うことを検討する材料として、あるいは保険会社から保険の引き受けを検討する材料として、その作成・締結が求められることになる。
しかしながら、映画製作会社側としては、製作コストを調達することができないうちに、あるいは調達が確実視できないうちに、監督や俳優の出演をコミットしてもらうことは通常できないし、監督や俳優たちも、その状態で承諾することはほとんどない。一概に製作資金を確保し、保険を加入するために「契約」を締結するといっても、そこには数多くの留意すべき事柄があり、また知っておくべき事情が多数存在する。
本稿では、ある映画について国際共同製作が行われるということを前提に、特に重要な監督契約、俳優契約、製作委託契約などを中心に、その契約内容に留意すべき点について解説を加えることとする。なお、以降の解説は、それぞれの契約における必要かつ十分な規定を網羅的に解説したものではなく、特に留意すべきと考えられる点を解説したものであるということをご留意頂きたい。また、本稿ではアジアにおける国際的な映画共同製作が行われることを前提としている関係上、資金調達もさまざまな国から得られ、監督や俳優の調達もさまざまな国から行われることを想定している。従って、我が国の映画製作のプロセスとは相当異なったことが記載されている場合があるが、この点についてもあらかじめご了承頂きたい。