映画製作において、どのようなプロジェクトスキームを構築し、そのために、どのような法律上の組織(ビークル)を利用するかは、映画製作のために投下した資本をどのように回収するか、という回収計画と密接に関連する。
たとえば、低予算映画であれば1社製作も可能であろうが、低予算といえども投下資本の回収(リクープ)は決して容易ではない。配給、宣伝、マーケティングまで含めて考えると、必ずしも1社で製作することが望ましいとは限らない。その映画のターゲット層への訴求ノウハウを持つ事業体と組んでプロジェクトを進めていくことが、投下資本の回収および収益の最大化に資する場合もある。
その場合に、その事業体とどういう組み方をするのか、たとえば、「宣伝業務」を委託するだけにとどめるのか、互いに製作費を出資しあって「製作委員会」を組成するのか、さらに、製作委員会を組成するとしても民法上の任意組合を利用するのか、LLP(有限責任事業組合)を利用するのか、といった法的な問題が絡む要素までブレイクダウンして検討することが、プロデューサーには求められる。
予算規模の大きな映画の場合は、テレビや雑誌などの媒体を活用してキャンペーン化し、一種のムーブメントを起こして、初日興行において全国の映画館を満員にするべく仕掛けることが回収計画を実現する上で重要となる。そのためには、どういう事業体と、どういう組み方をするのが望ましいかについて、当該映画の性質や内容、ターゲット層、キャストのファン層などを踏まえて検討する必要がある。
つまり、回収計画を策定し、そこから逆算してプロジェクトスキームを選択し、そのための組織を構成し、契約関係の整理を行うことは、「プロジェクトリーダー」としてのプロデューサーに求められる重要な能力といえる。
当然ながら、プロデューサーが法律や会計の専門的な知識を持っている必要はないが、スキームを選択する際の「選択肢」を少しでも多く持っていることは重要であろう。そのための一助となる情報を提供することが、本稿の目的である。
なお、回収計画の策定、マーケティング、プロジェクトスキームの構築(事業パートナーやスキームのハブとなるビークルの確定など。「座組」ともいう)は、並列的に進行するのが一般的だ。