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ブランディング映像シンポジウムレポート (3/3回)
ブランディング映像シンポジウムレポート (3/3回)

2018年11月12日 (月) に開催されたシンポジウム「エンタテインメントを活用した企業ブランディング」では、コンテンツ制作者とコンテンツ業界以外の企業が連携し、映像コンテンツを中心としたエンタテインメントを活用して国内及び海外に向けた企業ブランディングを行うことを目指して、国内外から招聘したゲストによるプレゼンテーションとディスカッションを通じて、最新事例や連携手法について広く紹介するとともに、中小企業における活用方法について議論を行いました。
本稿は、シンポジウムの内容を3回に分けてご紹介するシリーズの最終回です。

タイトル エンタテインメントを活用した企業ブランディング
開催日時 2018年11月12日 (月) 13:00〜17:30
会場 TEPIAホール (東京都港区北青山2-8-44 TEPIA先端技術館4F)
登壇者 ・Sanjay Sood (Faculty Director, Center for MEMES, UCLA Anderson School of Management)
・Bob Deutsch (CEO, Brain Sells)
・Eric Johnson (CEO, Founder, WON WORLDWIDE)
・別所 哲也 (「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」代表 / 株式会社ビジュアルボイス 代表取締役社長 / 俳優)
・杉山 英隆 (株式会社S2C2 代表取締役)
・清田 智 (株式会社QPR 代表取締役)
主催 経済産業省

Who――中小企業における取り組みの可能性

自由で迅速な展開が可能な中小企業の強みを生かす

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Sanjay Sood:
 大企業・中小企業ともに共通しているのは、コンテンツの内容がプロダクト中心ではなく、なにかを感じるような、とてもヒューマンなストーリーを作るようになっていることだ。デジタルプラットフォームが増えて安く製作できるようになったことで、感情的なつながりを人々に届けられれば、中小企業でも強力なインパクトを消費者に与えることができるようになった。Chipotleのように、テレビCMに多額の宣伝費をかける前にネットで実験できる環境になったのも中小企業にとって追い風だ。

 ロサンゼルスのシューズブランドTOMSは、客が靴を一足買ったら貧しい子ども達に新しい靴を一足贈るという「Buy one Give one」を原則としており、南米やアジアの貧困国の子どもたちの事情や、靴を届けるシーン、環境に優しい素材、手入れのしやすさなどを短い動画にして発信している。こうした取り組みが消費者の共感を呼び、アパートの一室から始まった同社は、6年間で年商6億ドルの企業に成長し、現在はテレビCMも出稿している。

Eric Johnson:
 大企業では広告とブランディングは区別されている。消費者と接点を持ちたいという意向もあるが、広告とブランディングが融合しておらず、同じCMを18カ月連続で出稿して、その中で結果を出さなければならないなど、プレッシャーも強い。一方で中小企業は、すべての広告がブランディングであるという認識で、柔軟に展開ができるところが強みである。

別所哲也:
 人材不足に悩んでいた中国地方のある造船会社の社長が、地元の工業高校生向けにアニメで会社を紹介するショートフィルムを作ったところ、入社希望者が増えたという事例がある。

 ブランデッド・コンテンツは特に人材採用や人事といったHRの分野への波及効果が大きいと思う。中小企業はオーナー企業も多く、概して意思決定が早い。製品を直接届けたい、会社のアイデンティティを見せたいなど目的はさまざまだが、それを面白がれる人が、まずは自分たちが伝えたいことを形にしてみてはどうか。

 動画として伝えるという作業に映像事業者がどうつながっていけるのか、映画祭というショーケースを作る者としても模索しているところだ。

感情表現とブランドには、密接な関係がある

Bob Deutsch:
 コンテンツを作る際の感情表現とブランディングには密接な関係がある。悪い例として、ある製薬会社が、関節炎のCMに、ジョギングやバンジージャンプを活動的に行うシーンを使った。実際に関節炎を患う消費者に見せると、自分がどんなスポーツが好きであろうと関係ない、ただ痛みを止めてほしいだけだと強く訴え、まったく共感しなかった。これでは逆効果である。

 その反対が、がんをテーマにしたCMだ。登場するのはある女性患者。彼女は毎日をなるべく楽しく過ごそうとするが、水曜の朝だけは、地下室で1時間ずっと泣く。リアルな状況を忠実に表現したそのシーンはとても力があり、切実なものが伝わってくることで心が動く。脳にはたくさんの回路があるが、感情を支配する領域から理性を支配する領域への回路はあっても、その逆はない。だからまず、感情をうまく刺激することが大事だ。

杉山英隆:
 自分がストーリーを描いてきた経験で言うと、コンテンツに必要なのは、感動的なシーンから一転して、最後にサプライズがあったり、にやっと笑わせたりする仕掛けだ。感情の行き来をうまく操ることができれば興味を引き、見た人の記憶に残り、ブランディングにつながる。

 物語を作る時は、一歩踏み込んだ、違う視点から見ることによってエンタテインメントが生まれ、コンテンツになる。今まで興味を示さなかった人が見るようになり、泣かせる、喜ばせる、笑わせる、そしてそのままの勢いでロゴを見せれば成功といえるのではないか。

広告とブランディングの融合が、マーケットを変える

Sanjay Sood:
 ハリウッドの大手タレントエージェンシーとして知られるCAAとWMEは、社内代理店を立ち上げ、企業ブランディングを行うようになった。Chipotleのブランデッド・コンテンツを製作したのもCAAだ。大手広告代理店よりも自由度が高く、ストーリーテリングも深く巧みで、広告関係の賞のグランプリをいくつか受賞している。

Eric Johnson:
 ニューヨークでは、企業はグループによって製作するコンテンツが違うこともあり、広告制作については代理店、その他のコミュニケーションについては外注するところが多かった。最近はどこの会社も、すべてのコミュニケーションを自分たちでやるようになった。また、メンフィス、サンフランシスコ、ポートランドなどの企業は、各地に子会社を作り、インハウスで作るようになっている。

杉山英隆:
 米国と日本の広告代理店は、その在り方や歴史が違うが、米国の代理店はブランドを考え、プランニングして、どういうクリエイティブをするか考えるのがメインの仕事であり、メディアバイの業務はレップに振っていた。それに対して日本の代理店はメディアとの付き合いがメインで、営業担当にとってはプランニングよりもクライアントの接待のほうが大事な仕事だったが、時代も変わり、担当者はしっかりしたブランドを考える時代が来ている。

 そうしたなか、ネスレは2013年からブランディングコンテンツの製作を開始。「ネスレシアター」を運営している。世界でもトップクラスのブランディングやマーケティングで知られる企業がブランディングフィルムを取り入れたのは大きな指標となる。日本の企業も、大企業・中小企業という範疇を超えて製作を進めていく方向を示唆しているのではないか。

別所哲也:
 広告代理店の社員は、「100人の知り合いがいるより、3人の親友、10人の友達」の時代だと言う。マーケティングは、これからそういう深さを求めていくのだろう。長く付き合ってくれる客を増やし、それが次の子どもの代に伝わってブランドが受け継がれ、育まれていく。そうしたことになんらかの新たな指標が生まれてきたら、ブランドというものに対する考え方自体も変わっていくのではないかと思っている。

(終了)