「良いものを作れば売れる」という時代は終わり、今は「良いものを作っても売れない」時代になったと言われています。特に中小企業においては、同等かそれ以上の品質でも、価格や流通などの要素で大企業に太刀打ちできないと感じている人も少なくありません。
それでは、この時代における「良いもの」とはどのようなものでしょうか。価値観が多様化し、SNSの普及で個人が情報発信するようになった今、以前のものと比較して「良いもの」であることよりも、消費者一人一人にとって「良いもの」であることが、より重要になってきています。そして、このように消費をめぐる環境が変化するなか、製品そのものを広く宣伝することに注力するよりも、自社のブランド力を高めることが企業には求められています。
日本語で「ブランド」というと、服やバッグといった高級消費財のイメージがありますが、決してそれだけではありません。自社のブランド力を高める、すなわち企業ブランディングとは、企業の理念や存在意義、世界観、製品やサービスにこめた思いなどを明らかにすることで、消費者や取引先、従業員、求職者、株主といったステークホルダーからの共感や信頼を得ること。規模の大小に関係なく、どのような企業であり、消費者の生活にどう役立つかをアピールする。そしてそれが理解され、「この会社なら安心できる」「わたしにはこの会社がいちばん合っている」と感じてもらうことで、優秀な人材の確保や従業員のモチベーション向上につながったり、消費者の購買意欲につながったりといった効果が期待できます。
アジア最大級の国際短編映画祭を主宰し、メッセージ性の強いドキュメンタリーや企業のブランディングのための映像制作の支援も行っている俳優の別所哲也さんは、コーポレート・ブランディングについて次のように話します。
「年商数百億円の大企業でなくても、小さな企業や、地方で長年がんばっている老舗が、ブランディングのための映像を制作し、インターネットで配信することで、自分たちの物語、自分たちのプロダクト、自分たちのサービスを、世界中に発信できる。そして、それをビジネスに変えていくことができるんです」
自社の理念や取り組みを丁寧に伝えるためには、短期的な効果を狙ったテレビCM的な映像や、製品の機能やスペックなどを数字や文字だけで説明する資料よりも、ストーリー性を重視し、視聴者の心に訴えかける映像表現が有効です。多様なメディアにおけるさまざまな映像表現が可能になった今、従来型のCM映像の数分の一の予算でも十分に訴求力のある映像を制作・発信できるようになりました。企業案内やIR資料では伝えにくい企業理念を映像によりわかりやすく表現できれば、広告や人材募集など別建てにしていた予算をブランディング映像制作に一本化することで、費用対効果が上がるというメリットも生まれます。