教育機関コンテンツ製作に関するビジネス面とクリエイティブ面を学ぶことができる教育機関の一覧です。

留学先での大学生活

フィルムスクールでの授業はどのように行なわれるのか、教員とはどんな関係を築くのか。現地での大学生活を紹介すると共に、渡航前の準備、現地到着後にすべきこと、必要経費など、素朴な疑問にQ&A形式で答える。

プロデュース学科の授業スタイル

ディスカッションや製作重視の授業

プロデュース学科の授業は、座学と製作実習の2タイプに大別できる。座学といっても教室で教員の話を聞くスタイルではなく、中心となるのは教員と学生によるディスカッションだ。質問内容によって授業のクオリティが左右される問題はあるが、クラスメイトの鋭い質問、ユニークな着眼点に刺激を受けることも多いだろう。ビジネス系の講義であっても、学生ひとりひとりに役を当てて疑似交渉を行なうロールプレイングを取り入れるなど、参加型の授業が多く見られる。また、ゲストスピーカーを招き、現在進行中のプロジェクトに関して経験を交えて語ったり、業界の裏側を話したりすることも多い。第一線で活躍するプロデューサー、スタジオの幹部、クリエイターを招いた授業もあり、実務的な話を聞く機会にも恵まれている。フィルムスクールによって校風は異なるが、総じて日本の大学院よりもカジュアルかつフランクに授業が進んでいく。

一方、製作実習では複数名でチームを組み、実製作を行なうケースが大半だ。プロデュース学科の学生だけで製作を行なうスクールもあれば、監督、編集など他プログラムの学生とチームを形成するスクールもある。いずれにせよ、映画製作の現場で必要なコラボレーションを製作実習を通じて経験できる、またとない機会といえる。言葉の壁があるため、留学生にはネイティブ以上の努力が必要とされるが、チームメイトを納得させる交渉力、彼らの意見を受け入れる柔軟性が培われることには間違いない。また、フィルムスクールの中には製作した作品を上映し、プロデューサーや監督たちに批評してもらう場も設けており、プロの率直な意見を聞くことができる好機となっている。ただし、製作費用は学生自身で賄うケースが大半で、その負担は学生に大きくのし掛かってくる。卒業製作ともなればスポンサーを募るケースもあるが、日々の課題には適用できない。現地では授業と課題、インターンシップで忙しく資金を稼ぐのも難しいため、留学前に余裕をもった金額を用意しておきたい。

教員とのコネクションを築く場として機能

学生のバックグラウンドも多種多様で、多くのフィルムスクールでは全世界からの留学生を受け入れている。厳しい難関を乗り越えて入学するだけあり、野心や志にあふれた学生が多いのも特徴だ。彼らとチームを組んで製作することは大きな糧となると共に、卒業後にはそのネットワークを仕事に活かすこともできるだろう。ただし、どれほど熱意に満ちた学生だったとしても、フィルムスクールの要求レベルに達していない場合は退学を命じられることもある。さらに、チーム製作での人間関係、かさむ費用に耐えかねて、ドロップアウトする者も少なからずいる。日本の大学院に比べると、厳しい環境であるのは確かだ。

その反面、教員がメンターとなり学生を支えてくれるなど、教員との距離が近いのも特徴である。授業後に教員やゲストスピーカーとコミュニケーションを重ね、コネクションを築くことも可能だ。そもそもハリウッドはフリーランスの集まりであり、日本企業のような社内教育の場を設けていない。フィルムスクールが人材の供給源となっているため、教員サイドも優秀な学生がいれば声を掛けるという構図ができあがっている。積極的にアクションを起こし、卒業後のキャリアに役立てたい。

プロデュース学科の学生の1日

プロデュース学科に通う学生は、どのような1日を過ごすことになるのだろうか。その一例を紹介する。

1日のスケジュールは、インターンシップの有無によって大きく異なる。インターンシップがない場合、朝から夜まで授業というケースが少なくない。例えば、USCでは9時から22時まで授業が設けられている。AFIでは週7日の授業が珍しくなく、入学時にはフルタイムで学業に取り組めることが重視される。語学力というハンデを抱えて授業に臨み、夜は課題、土日は撮影に没頭する。そんな容易とはいえない道のりが待っている。

夏休みには、多くの学生がインターンシップに参加する。週5日フルタイムで働き、夏休みが終わってもそのままインターンシップを続ける者も多い。東海岸のフィルムスクールの学生が、西海岸へ出向くケースもある。

フィルムスクール側もインターンシップの重要性を熟知しているため、USCやUCLAのように夏休み明けもインターンシップを続けられるよう夜間に授業を行なう大学もある。USCを例に挙げると、9時から17時はインターンシップ業務、その後19時から22時まで授業を受けるというスケジュールだ。パートタイムのインターンシップに参加する者、自身の作品製作に取り組む者など人それぞれだが、いずれにしても忙しい毎日を送ることになる。とはいえ、ここまで製作に没頭できる日々は貴重であり、実りある時間といえるだろう。

インターンシップで働きながら業界を学ぶ

お茶汲みから企画開発まで、多岐にわたる職務

前述の通り、フィルムスクールに通う学生の大半がインターンシップに参加する。その多くは夏休みを利用して行なわれ、その後も同じ職場で働き続ける者も少なくない。インターンシップとしてスタジオや製作会社に入り込み、そこで目に留まれば採用、というのがハリウッドでの一般的な就職ルートとなっている。就職を前提としているため、留学生にとっては就業ビザや言葉が壁となるが、教員やゲストスピーカーに認められれば、彼らの紹介でインターンシップの機会を得ることはできる。

インターンシップ先は、主に映画スタジオ、映画やテレビの製作会社、テレビ局、タレント・エージェンシーなどの映像業界である。多くの場合、週4、5日出社して各種業務を行なうことになる。大半は無報酬だが、USCでは大学側が日給100ドルほどの有償インターンシップを斡旋してくれる。業務内容はインターンシップ先によって異なるが、大きく分ければ次ページの3種類が挙げられる。

①雑用

スタジオや制作会社に入り込めたからといって、必ずしもクリエイティブな仕事ができるとは限らない。お茶汲み、コピー取り、電話の応対、届け物、掃除といった、いわゆる雑用を任されることも多い。中には上司の犬の散歩など、クリエイティブとは程遠い仕事を頼まれることもある。しかし、だからといって腐ってはいけない。アメリカの映画業界は意外にも体育会系的な世界であり、下積み経験を重視する。雑用をきっちりこなし、上司に認められることが、キャリアアップの第一ステップにつながるのである。どのような仕事も丁寧に行ない、信頼を勝ち取るように心掛けるべきだろう。また、現場の雰囲気を肌で感じ、ビジネスの流れを知ることができる点も有用だ。もちろん就業時間のすべてを雑用に費やすのではなく、他の業務の合間に雑用を頼まれるケースも多い。

②カバレッジ

カバレッジは、プロデューサー志望の学生が任されることの多い仕事である。会社に送られてくる売り込みの脚本、テレビのドラマ脚本に目を通し、ストーリーの要約と評価をつける下読みの仕事だ。留学生にとってはネイティブに比べると読解スピードが遅いため苦労も多いが、優れた脚本を見出す目を養うことができる。あるスタジオでは、売り込まれる脚本の99.9%は下読みの段階でふるいにかけられて落とされるという。スタジオ幹部に実際に読まれるのは1500本に1本程度であり、それほど絞っても映画化されず終わることも少なくない。ハリウッドの厳しさを知るにも、好適な仕事といえるだろう。

③日本向けの企画開発

よりクリエイティブな職務を任されるケースも存在する。あるAFI卒業生の場合、Universal Pictures傘下のFocus Featuresで働き、日本向け作品の企画開発を行なった。日本市場のトレンド分析、業界事情を調査し、どのような戦略を立て、どこをパートナーにすればよいかといった資料の作成業務を任されたという。また、USC卒業生の中にはFoxのLocal Production部門で、日本地区、中国地区向け作品のカバレッジを手掛けた者もいる。日本市場は巨大でありながら、アメリカから見ると市場動向が読めず、戦略を打ち立てにくい。そこで、日本人であり業界事情に詳しく、プロデュースの知識も備えた人材として高く評価されたのだろう。逆にいえば、日本市場の開拓に意欲的な教員、ゲストスピーカーを見つけて売り込みを掛ければ、クリエイティブな仕事を任される機会も増えることになる。日本人であることを高く買ってくれるインターンシップ先を見つけたい。

以上3つの職務を挙げたが、それ以外にもマーケティング業務、映画の翻訳・字幕、フィルムマーケット出展企業のサポート業務など、さまざまな仕事を経験できる。また、大手スタジオ、製作会社がひしめく西海岸とインディペンデントに強い東海岸では、得られる職も異なってくる。無給とはいえインターンシップ先を見つけるだけでも大変だが、現場を体験することで大きく成長できるだろう。

卒業生・在学生が答える大学生活Q&A

ここからは、渡航前の準備、現地での日常生活について、一問一答形式で説明する。フィルムスクールの卒業生・在学生の声を基に回答をまとめたので、現地での生活に役立ててほしい。

渡航前に必要な準備、事務手続きは?

ビザ申請、航空券手配、資金確保は必須

パスポートの用意、ビザ申請手続き、航空券手配は当然必要となる。学費、生活費、初期費用など当座の必要資金を計算し、その額を準備することも大切だ。奨学金等がもらえる場合も、振り込まれるまでは自費で立て替えなければならない。余裕をもった資金計画を立てるべきである。

健康状態の確認も重要だ。特に海外で歯の治療を受けると高額になるため、歯科検診を受けておくことをお勧めする。持病がある場合は必ず薬を持参し、そうでなくとも万一に備えて海外旅行保険に入っておくと不安がないだろう。

また、少なくともアメリカに到着した初日の滞在先は、日本で手配しておいたほうがいい。到着直後は諸般の手続きや住居探しで慌ただしいため、余裕のある日程で行動するようにしたい。


現地到着後、まずすべきことは?

通信手段、交通手段、住居の確保など多岐にわたる

大きく分けて、通信手段、交通手段、住居の確保が挙げられる。

通信手段としては、携帯電話の購入が第一だろう。アメリカの大学では非常時の連絡、休校の連絡は、携帯電話で行なうケースが多い。日本から携帯電話を持って行く、現地でレンタルするという方法もあるが、コストを考えると現地での購入がベターだ。月々の料金を1ヵ月単位で支払うポストペイド契約、料金前払い式のプリペイド契約があるので、自分に合った契約方法を選びたい。

車での移動がメインとなる西海岸に留学する場合は、自動車の購入も必要となる。アメリカでは中古車の値下がり率が低いため、初期資金に余裕があれば新車を購入して帰国時に売却するのがよいだろう。新車、中古車共にディーラーで買えるうえ、個人売買で手に入れることもできる。個人売買は安上がりだが、購入前に整備工場でチェックしたり、試乗したりと手間が掛かる。金銭トラブルが生じることもあるので、その点に留意したい。また、自動車購入に伴い、免許取得手続き(州により取得に際しての規定が異なる)、自動車保険への加入も必要だ。

住居の確保も大きな問題である。フィルムスクールでの日々は多忙となるため、留学中に大学の近隣に引っ越すケースも少なくない。通学に不便がないか、余裕をもって支払える家賃かなどを考慮して選択したい。ルームシェアなら家賃を抑えられるうえ、異文化交流も望めるだろう。

その他、銀行口座の開設、フィルムスクールでの事務手続きなども必要となる。留学先に必要な手続きを問い合わせ、個別に対応してほしい。


現地での移動手段は?

東海岸は公共交通機関、西海岸は車が中心

東海岸と西海岸では、移動手段も大きく異なる。

東海岸の場合、学生の大半が車を持たずに過ごす。ニューヨークは駐車場の料金も高く、止めるスペースも少ない。しかもひどく渋滞するとなれば、当然の選択だろう。移動は地下鉄、バスなどの公共交通機関を利用し、製作実習の撮影時にはレンタカーやタクシーを使うケースがほとんどだ。1週間から10日間車を借りるだけで約15万円ほど掛かることもあるため、撮影経費の負担も大きい。


家賃や生活費など、いくらぐらい必要か?

学費を含め、東海岸で約2000万円(3年間)、西海岸で約1300万円(2年間)程度

一般的に東海岸は総じてコストが掛かり、西海岸は比較的安いといわれている。

ニューヨークで生活していたColumbia卒業生(2007年卒)によれば、ひと月の家賃は約1000ドル、生活費は500ドルほど掛かっていたという。ニューヨークに拠点を置くColumbiaとNYUは、プロデュース学科が3年制ということもあって学費も高い。さらに課題の映画製作費として、レンタカーやタクシー代、ロケーション代、機材のレンタル料も掛かってくる。音楽やデザイン系のクリエイター志望者は多く、映画製作にも協力的であるため、ヒューマンリソースにはさほど資金が必要とされないが、それでも西海岸と比べると製作コストは高額だ。あくまでも参考ながら、この卒業生によれば、学費も含め3年間で2000万円ほど費やしたそうである。現在なら、さらに高額な費用が必要となるだろう。

では、ロサンゼルスやカリフォルニアといった西海岸はどうだろうか。あるAFI卒業生(2010年卒)の住居は、ひと月約800ドルの家賃だったという。別のUSC在学生(2013年現在)は、1年目には2200ドルの物件を4人でシェアしたため、ひと月の家賃は約550ドル、パーキング料は月額30ドルほど掛かったそうだ。2年目にひとり暮らしを始めてからは、約900ドルの物件で暮らしている。映画製作にあたっては、移動の交通費、機材費が安いため、さほど大きな負担にはならない。USCの場合、一部の製作実習では作品当たりに掛ける費用の上限が1200ドルと決まっているのも負担軽減につながっている。就学期間、時期が異なるため、Columbia卒業生との単純な比較はできないが、このUSC在学生は学費を含めて2年間で1300万円ほど掛かると目している。

また、アメリカで生活するにあたり、「クレジットスコア」が重要となる。これはクレジットカードとそれに基づく定期的出費を行なうことによる「信頼」の指標である。つまり、クレジットの支払・返済履歴や借入残高、クレジットカード使用歴の長さなどから判断される信用評価点だ。アメリカでは各種料金の滞納、不払いが多いため、クレジットスコアが低い者、スコアを持たない者に対しては、公共料金や携帯電話料金の支払いなどあらゆる局面で前払い金が課せられる。クレジットスコアを持たない留学生にとっては、この前払い金の負担が大きいようだ。

いずれの地域にせよ、在学中は有給の職に就くことが難しい。潤沢な資金を用意し、留学することが望まれる。


アメリカでの生活で、カルチャーショックを感じた点は?

日本に比べ、総じてルーズでアバウト

日本のきめ細やかなサービスに慣れていると、アメリカでの生活に戸惑うことも多い。例えば、郵便物が届かない、時間を守らない、身に覚えのない料金を徴収される、サービスの手際が悪い、車の運転が荒いなど、枚挙にいとまがない。不測の事態にも対応できるよう、スケジュールにゆとりをもって行動することをお勧めしたい。

また、ポンド、ヤード、マイル、インチ、フィート、華氏など、世界基準とは異なる単位を使用している点も留意しよう。慣れるまでは頭の中で変換するのが大変なので、単位変換表やスマートフォンの変換アプリなどを利用するのもひとつの手だ。


アメリカで映画製作に取り組み、特に難しさを感じた点は?

下地となる文化が違うため、壁がある

言葉の壁もさることながら、文化の壁も高いといわざるを得ない。例えば、日本人が『ドラえもん』『サザエさん』を当たり前のように知っているのと同様に、アメリカ人にも彼らの血肉となっている文化が存在する。あるColumbia卒業生は、授業でクラスメイトたちが歴史上の人物の話をする中、自分ひとりだけがその人物をまったく知らないという状況に陥ったそうだ。ある程度なら学習すればカバーできるものの、やはり生まれ育って文化を共有していないと、その真髄までを理解するのは難しい。文化、風習、生活習慣などがわかっていないと、アメリカ人に混ざって対等に映画を製作することは困難である。その壁をわかったうえで、日本人ならではの感性、視点を活かして共働に取り組むことを勧めたい。


他国の学生の日本に対する興味は?

市場の大きさは認めているが、詳細はあまり知られていない

日本の映画市場の大きさは、ハリウッドも認めるところである。しかし、一般の人が認識している日本の映画人は、ほとんどゼロに等しい。教養ある一部の若者が、北野武やスタジオジブリの名を挙げるにすぎない。

一方、インディペンデント系の映画人を志す東海岸の学生は、日本に興味を抱いている者も少なくない。小津安二郎ら昭和の映画監督、北野武、三池崇史ら現在の映画人はもちろん、村上春樹の注目度も高い。彼らの作品について意見を求められることもあるため、留学前に自分なりの見解をまとめておくのもよいだろう。