教育機関コンテンツ製作に関するビジネス面とクリエイティブ面を学ぶことができる教育機関の一覧です。

卒業後の進路

フィルムスクールを卒業した日本人留学生は、どのような進路をたどるのか。卒業後、アメリカに滞在できる期間、就労ビザの取得に関する問題点を取り上げつつ、卒業生の実例を交えて考えうるキャリアを紹介する。

米国滞在か帰国か、二者択一の未来

アメリカ人卒業生は、スタジオなどの社員やアシスタントプロデューサーに

まずは、アメリカ国籍を持つ卒業生のモデルケースを紹介しよう。フィルムスクールのプロデュース学科を卒業したアメリカの学生は、映画あるいはテレビのスタジオやプロダクション、エージェンシーに入社するか、インディペンデント・プロデューサーのアシスタントになるか、いずれかの進路をたどるのが一般的である。インターンシップやフィルムスクールで培った人脈を頼り、卒業後の職を得るケースが多い。卒業製作で学生アカデミー賞、学生エミー賞を得てプロダクションを興す者、インターネット系のミニスタジオに入る者もいるが、いずれにせよコンテンツ・プロデューサーになることには変わりない。また、ビジネスとクリエイティブ両方の視座を持つ脚本家、監督として、ハリウッドに打って出る人材も少なからずいる。フィルムスクールのプロデュース学科を卒業後、わずか1年で『Apollo 18』の脚本を執筆し、成功を収めた者もいる。

とはいえ、卒業生全員に明るい未来が待ち受けているとは限らない。スタジオやプロダクションでアシスタント職に就いても、得られるのは年収2万ドル程度である。生活費に加えてフィルムスクールの学費ローンも支払わねばならない中で、この収入は厳しいといわざるを得ない。その後、早期に昇進する者もいるが、4、5年もの間このポジションに甘んじる者も少なくない。しかもスタジオの企画開発職の場合、アシスタントからクリエイティブ・エグゼクティブ、ディレクターに昇進しても年収は4~6万ドルほどだ。その後、自分自身でプロジェクトを動かす立場になれば収入は上がるものの、それもひと握りである。そのうえ、常に結果を出し続けなければ解雇されるおそれもあり、安穏とはしていられない立場だ。フィルムスクールを卒業し、大手スタジオに潜り込んだとしても、安泰とはいいがたいだろう。

日本人留学生は、米国または日本で国際協働を行なうケースが多い

では、日本人留学生がフィルムスクールを卒業した場合、どのような進路が考えられるのか。大きく分けると、アメリカに残って仕事に就き日本の映画業界との橋渡し役をするケース、日本に戻って他国との共同製作や日本発コンテンツの発信を行なうケースのふたつの進路が考えられる。

第一のケースは、留学中に築いた人脈を活かし、そのまま米国にとどまるパターンだ。ただしこの場合、就労ビザの確保が大きな問題となる。フィルムスクールに留学する際、入学者は事前に学生(F-1)ビザを取得する。卒業後はOPT(Optional Practical Training)という就労許可を移民局に申請することで、12ヵ月間のみ米国内で就労できる。なお、就ける仕事は在学中に学んだ専攻分野に関する職業のみである。

この間に就労(H-1B)ビザを取得できればいいが、申請に際してアメリカ人にはできない仕事であることを証明する必要があるため、非常に難しい。また、大抵の仕事は最低2年間働くという条件があり、さらに門を狭めている。しかも、アメリカの映画業界は会社を移り渡ることが一般的で、ひとつの会社が一外国人のビザをサポートすることは稀である。大手スタジオであるほど外国人の雇用に消極的であり、エージェンシービジネスに到っては日本人がひとりもいないという。そのため、もし現地での就職を目指すなら、規模はあまり大きくないが実力のあるプロダクションが理想的かもしれない。

また、芸術、科学、教育、ビジネス、スポーツの分野で卓越した能力を有する外国人に発給されるO-1ビザの取得をねらうという手もある。しかし、こちらも審査基準は厳しく、狭き門となっている。いずれにせよ、日本人プロデューサーを雇用するメリットを自分自身で明確に打ち出せないと、米国にとどまることは難しいだろう。ビザが下りなければ、日本に拠点を移して仕事を続けることも考えねばならない。

第二のケースは、より現実的だ。実際、フィルムスクールを卒業後、日本に帰国して活躍する卒業生も少なくない。例えば、ある卒業生は広告代理店で海外との共同製作番組などに取り組み、プロデューサーとしてコンテンツビジネスを国内・海外問わず展開している。また、大手企業各社の出資を受け、日本発コンテンツのハリウッド展開を行なう会社を起業した卒業生もいる。さらに、アメリカ人のパートナーと共にロサンゼルスで製作会社を起こし、インディペンデント・プロデューサーとして映画、テレビなどのコンテンツ開発を行なっている卒業生も存在する。企業に就職・再就職する人、起業する人とさまざまなケースがあるが、いずれもフィルムスクールでの学びを活かし、世界で活躍する成功例といえる。

また、現在留学生活を送る学生の中には、日本発コンテンツの映画化に興味を示すアメリカの製作会社や日本での撮影や日本人俳優の起用に意欲的なスタジオ、海外配給を行なうセールス・エージェンシーや製作会社への入社を目指す者も多い。このようなケースでは、日本人であることが大いなるメリットとなるだろう。晴れて職に就けば、日本市場の内情、傾向を知るプロデューサーとして重用されるはずだ。

日本の映画市場は、アメリカ、中国に次ぐ第3位の規模を誇っている。2012年に中国に抜かれたとはいえ、劇場公開映画のみが数字を伸ばす中国とは異なり、日本はテレビ放送、DVDやBlu-rayのパッケージ販売、オンライン配信も盛んである。今なお、世界最大の映画バイヤーといって問題ないだろう。海外配給で興行収入を支えるハリウッドにとって、日本人が果たす役割はまだまだ大きい。シュリンクする日本の映画業界にとっても、世界市場に向けてワールドワイドに通用するコンテンツを生みだすことは急務である。アメリカと日本、どちらに軸足を置こうとも、プロデューサーの職務に変わりはない。ハリウッド映画の日本展開を手掛けるプロデューサー、国際協働により新たなコンテンツを生みだすプロデューサー、日本発コンテンツの海外展開に尽力するプロデューサーとして、フィルムスクール卒業生がグローバルに活躍する機会は今後ますます増えるだろう。